「当日制作」 という呼称を焼くことに正当性はあるだろうか

(追記) 別の記事も書きました。少し観点の違うものなど → 「当日制作」 と 「当日運営」
はじめに
小劇場演劇のスタッフの業務には、受付やもぎり(=ホール入口で観客のチケットを確認して、半券を切り取る人)、場内誘導といった、観客に接する部分の 「公演の当日にのみ発生する業務」 というものがあります。そして、(その劇団にもともと所属しているとか、稽古段階から参加しているとかではなく、) 公演の当日のみのスタッフとして参加し、これらの業務を担当する人、が存在する場合もあります。
 
(個々人が、公演に対してどの段階から参加しているか、という話は一旦さておき、) 公演当日のスタッフの役職名は、その専門の名称(例えば 受付・もぎり・場内誘導・物販 など) で呼称される場合もありますが、それらを複合して、あるいは総称として、当日運営スタッフ、当日運営、フロントスタッフ、当日スタッフ、運営補助 等々、様々な名称で呼ばれる場合もあります。 ※本稿では、区別のため、これらの業務を担当する人を、(仮に) 「当日業務のスタッフ」 と呼ぶことにします。
 
「当日業務のスタッフ」 をなんと呼称しているか、というのは、団体によって (、あるいはおそらくは地域によっても) 様々であり、「当日制作」 という呼称を使用している人や団体もあります。
そして、この 「当日制作」 という語の使用に対して異議を唱えているのが、 小劇場演劇の制作者を支援するサイト fringe の荻野さんのこの記事です
fringe / 「当日制作」という役割はない  (※以降、「fringe の記事」 と呼称します。)
 
本稿は、「fringe の記事」 の内容に、反論を試みるものです。
■ 筆者について
・筆者は、Twitter アカウント 北海道の高校演劇 の管理人です
・個人情報はとくに出さないですが、fringe に対する筆者の通常のスタンスは、 過去のリツイート具合 からご判断ください
・諸事情により、筆者は 「fringe特製クリアファイル」 を持っています
・しかし、本件についてだけはあまり賛同できずにおります。過去のツイートを並べておきます (恥ずかしい)
■ 本稿について
・「fringe の記事」 にかかれている内容は、青色のテキスト で書こうと思います
・「制作」 という語は、業務 あるいは 業務の束、担当者 あるいはその呼称、役職 (肩書)、など、文脈上多くの意味で使用されると思います。誤解のないように、何を指して述べているかを、本稿では 「制作」 (役職) のように括弧書きで補おうと思います。場合によって、「当日制作」 についても同様にします。
よろしくお願いします。
 
■ 本稿について (追記): 用語について
・本稿において、「呼称」 とは、おもに団体内部での呼称を想定しています
・「役職」 は肩書、あるいは担当部署・担当業務あたりの概念を想定しています。 例:「物販担当」 なども該当
・「クレジット」 は、フライヤー等に掲載されるような、外部向けの表記を想定していますが、本稿では触れていません。 (呼称と同じものを使ったり、あるいは 「制作協力」 「運営補助」 など別の語をあてる、というケースもあると思います)
 
■ 筆者の疑問
・「fringe の記事」 には同意する部分もあるが、「当日制作 という呼称の使用者」 を排撃できるほどの正当性はないのではないか
 
■ 筆者が懸念している事柄
・「当日制作」 という呼称を使う人や団体について、「その語を使用するという点だけで低く見る」 と公言する人がわりといる
・「当日制作 という呼称がわりと好きなのに、使えない」 という人がいるのではないか
 
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■ 「当日運営」 という呼称には、反対する人もいる
・2016年のツイートを持ち出して恐縮ですが、舞台制作会社 J-Stage Navi の島田敦子さんが、下記の内容のツイートをされています。
(全文引用) 芝居の 「当日運営」 って何だ?。受付を、当日のみきて運営することだと思って、そんなネーミングができたのだとしたら、それは大きな誤解を生むのでやめて欲しい。
・ご本人の真意はお伺いしなければ定かではないですが、筆者の認識 (あまり詳しくはない) では J-Stage Navi といえば劇団の 「制作」 (担当者) の相談に乗るようなポジションの会社であるので、ここで合意がとれないようであれば、「当日業務のスタッフ」 の呼称の代替候補として、 「当日運営」 は1歩後退するのではないか、と思います。
・本件は (本筋ではないので、) 提示のみです。
■ そもそも 「当日制作」 は 「制作」 を名乗ってはいない、のではないか
・「fringe の記事」 では 「当日制作」 について、本人は 「公演当日の制作」 という意味で使っているのだと思いますが、 と書かれています。
・筆者は、これは誤りなのではないかと思います。もし、 「公演当日の制作 (役職)」 だという意味であれば、「それは100%誤りだ」 と言い切ることもできるでしょう。
・筆者は、「当日制作」 という呼称には、下記の2通りがあるのではないか、と考えています
 
[パターンA: メンバーの参加スタイルに対応する呼称である]
・本稿の 「はじめに」 で書いた、「公演の当日のみのスタッフとして参加」 する人を、「当日制作」 (呼称) と呼んでいるパターンです
・「fringe の記事」 では それまでは 「お手伝いさん」 と呼んでいた という文面があります。しかし、「お手伝いさん」 は、個人の参加スタイルにまで言及した語ではありません
・新しい概念を呼称するから、新しい言葉がいる。彼あるいは彼女がどの部署を担当することになるかは決まっていないが、制作業務のうちのどれかを担当することは間違いがない。 ゆえに「当日制作」 (呼称) と呼称する。 このことに、なにか批難されるような点があるでしょうか。
・このパターンでは、例えば受付に、あるいは物販に、劇団所属の (「当日制作」 (呼称) ではない) スタッフと、「当日制作」 (呼称) のスタッフが混在する、ということが有り得ると思います。
 
[パターンB: 制作 (担当者) の業務のうち、当日に発生するものを 「当日制作」 (業務) と呼び、その担当者としての呼称である]
・つまり 「公演当日の制作」 ではなく 「当日制作 (業務) の担当者」 という理解です。
・「fringe の記事」 では、「当日+制作」 という組み合わせはあり得ません という意味合いの文章が何度か出てきます。
・これが、「当日+制作 (役職)」 はありえない、という主張だとしたら、筆者はおそらく 100%同意したでしょう。
・しかし、「当日+制作 (業務)」 はありえない、という主張だとしたら、筆者はおそらく 「そんなことはないでしょう」 と思います。
・「制作業務のうち、公演当日に発生するものといえば “当日運営“ である。そちらの語のほうがフィットが高いから、 “当日運営“ を使おう」 という主張は理解できます。
・しかし、いま問題となっているのは 「どの語がよいか」 ではなく、 「当日制作 という呼称を滅ぼそう」 という問題なので、そちらには同意することができません。
・「当日制作」 (呼称) を使う人たちは、制作業務のうちの一部分を 「当日制作」 (業務) と認識し、それを担当する人を 「当日制作」 (担当者) と呼んでいる。
・「当日制作」 (担当者) は、当日も、そうでない日も、 「当日制作」 (担当者、呼称、役職) である。 彼らは一度も 「制作」 (役職) を名乗っていないと思います。
■ 「制作に当日をつけるのはおかしい」 という主張は、「運営に当日をつけるのはおかしい」 に繋がってしまうのでは
・例えばアイドルの現場で、パフォーマーであるアイドルに対し、スタッフ側が 「運営」 と呼ばれるのを多く見るようになりました。
・この 「運営」 は当然、公演の当日のことだけでなく、活動のすべてに携わる、演劇で言う 「制作 (担当者、役職)」 のようなポジションに対応すると思います。
・仮に、「制作に当日をつけるのはおかしい」 という主張が正しいとすれば (筆者は正しいと思わないですが)、同じことが (言葉としての) 「運営」 にも当てはまってしまうのでは、と思います。
・ 「制作に当日をつけるのはおかしい」 という主張には、「制作」 という語が、業務の束、担当者、呼称、役職 など場面場面で多くの意味を持つことも影響しているのではないかと思っています。なぜなら、「制作 (役職) に当日をつけるのはおかしい」 という主張であれば、本当に同意であるからです。
・本件は (本筋ではないので、) 提示のみです。
■ 当日制作を名乗ればリスクがある、は本当か
・「fringe の記事」 では、「一日駅長」 「一日警察署長」 の例をとり、そこに (本来の駅長や警察署長のような) 責任は発生しません と書かれています。 ※括弧内は筆者
・また別の場所には、「演出助手」として参加している人が「演出」と名乗ったら、責任の度合いが変わってしまうでしょう とあります。
・上記の 2つから類推される主張は、「制作 (役職) と、当日制作 (役職、呼称、担当者) の責任は大きく異なる」 なのではないかと思うのですが、「fringe の記事」 では (なぜか)、「当日制作を名乗れば、制作 (役職) と同等の責任を負う」 あるいはそのリスクがある、という主張がされているように思われます。
・これは責任問題の話なので、知らぬ身にはあまり適当なことも言えないのですが、なにかそのような実例があったのでしょうか。
・筆者は、「当日制作 (役職、呼称、担当者) 」 はむしろそのリスクが低いのでは、と考えています。次のような理由からです。
■ 「制作」 (役職) の管轄する 「当日運営」 (業務) と、「当日制作」 (業務) の内訳は、厳密には異なるのではないか
・「制作」 (役職) の管轄する業務には入っていて、つまり 「当日運営 (業務)」 の範疇でありながら、おそらく 「当日制作 (業務)」 には含まれていないだろう、という業務があります。
・それは、「ステージ上で行われる、パフォーマンスの遂行」 です
・仮に、舞台上でどのようなトラブルが発生したとしても、当日のみ参加していることが名実ともに明らかな 「当日制作 (呼称、担当者)」 がその責任を負うことはないのではないでしょうか。彼らはむしろ 「当日」 という冠がついていることによって、その責任が限定的であることを示され、守られていると言えます。そして、似た呼称ですが 「当日運営」 には、その 「責任が限定的であることを示す」 という能力はありませんから、この点では少し差異があると言えます。
書きたいことは、大部分書いたと思います。
 
■ この先何年続けるか
・「当日制作という呼称をやめよう」 という fringe のキャンペーンは、ざっくり10年続いていると思います。
・ここから 「当日制作」 という呼称を完全に焼ききるまでに、仮に、あと5年かかったとしましょう。
・一個人の中では、演劇に携わる活動の全期間がその中に入っている、という人も出るでしょう
・その間ずっと、「当日制作という呼称を使う人」 は 「低く見られる」 のでしょうか。また、「低く見る人」 を増やし続けるのでしょうか
・本当に、「xxx という呼称のほうがより良い」 という主張ではなく、「当日制作 という呼称を滅ぼしたい」 と考えている人はいるのでしょうか。何人くらいいるのでしょう
・それは、正当な主張でしょうか
 
■ 当日制作という呼称がなくなったあとの世界は今よりよいか
・「当日制作」 を名乗る人の中には、「いつかは本物の 制作 になる」 と思って、一種の憧れを持ってその呼称を使っている人もいると思います
・「当日制作 と 制作 には大きな差異がある」、と考えているのは、何よりもその人自身かもしれません。
・「当日制作」 という呼称がなくなることに、筆者は価値を感じません
 
■ 筆者の主張
・「当日制作」 という呼称は、おかしくない
 
■ 筆者が望む世界
・「当日業務のスタッフ」 が、当日運営スタッフ、当日運営、フロントスタッフ、当日スタッフ、運営補助 等々、好きな名前で呼ばれる
・当日制作 という呼称も、そう呼びたい人の間で普通に使われ、そのことだけで、とくに高くも低くも見られない
 
(ありがとうございました)
(追記) fringe の荻野さんから反応をいただきました。 → 記事中に 「本稿について (追記): 用語について」 を追加しました